2025年06月15日更新

 Mathematica で, 6次方程式(sextic equation)の厳密解を求める

[1] Mathematica13.3 で 5次以下の方程式のガロア群や,5次方程式の解を求めるプログラムを書いたのは 2025年の2〜3月でした.そのあとMathematica14 で2025年の5月に7次方程式の解を求めるプログラムを書きました.その直後に11次方程式に取り掛かったのですが,そもそも可解で既約な11次方程式で「x11+c」以外の形をしたものが一週間計算しても見つからなかった事と ガロア群が110次にもなる事で,11次方程式は取りあえずあきらめ,6次方程式に取り掛かりました.(この時は LMFDB という数学のデータベースの事は知りませんでした.私のサイトを見てメールを下さった方から教えて頂きました.ありがとうございます.)

[2] 6次方程式に取り掛かった時,可解で既約な方程式はすぐに見つかりましたが,可解なガロア群が12通りもあり,今までと異なる面白さと難しさがありました.12個の可解ガロア群は大きく分けて3つに分けられるのですが,それは過程がやや面倒になるだけで,真の困難は,ガロア群の位数が最大72となり,SageMathでも正しい「vによるfの解の表現」が見つからなかった事です.(もしかすると私のプログラムミスかもしれませんが,出てきた結果を f の式に代入して簡約してもゼロになりませんでした).Magma Calculator も使ってみましたが,今度は出力が大きすぎて結果の後半部分が省略されてしまいました.そこで「参考文献1」をダウンロードして読んだのですが,ここで「ガロア分解方程式」(Dummit氏 のθを使った方程式一般を Hagedorn 氏はこの様に呼んでいます)を使う方法を本格的に知ることができ,何とか6次方程式も解けるようになりました.ガロア分解方程式を使う方法は,ガロア群も「vによる解の表現」も求める必要がなく,対称性を使った計算を行うだけなのですが,計算量は膨大なのであらかじめ一般の係数で計算しておく必要があります.(下で触れたp15cの計算は3日掛かりました.) 即ち,補助公式を沢山作る必要があり,また各々の補助公式も非常に長いです.(下の sexticFormulas.txt は7千行を超えます).その代わり,Galois群をあらかじめ計算しておく必要もなく,解を求めること自体は「秒」で終わります.補助公式(p10a〜p10f, p15a〜p15eの式)さえあれば,後は2次と3次方程式の解の公式を使うだけなので,いわゆる「6次方程式の解の公式」を書き下すことも可能です.しかし,そのことに余り意味があると思わなかったので,ここではしていません.(何故なら「解の公式」が7千行を超えるからです.) Hagedorn 氏の論文でも「解の求め方」は書いてありますが,「解の公式」は書いてありません.

[3] 解き方は Hagedorn 氏の論文を大いに参考にしましたが,氏とは異なるガロア分解方程式を選んだので(氏の挙げている分解方程式g(x)が4日経っても計算できませんでした), 氏の解き方とはかなり異なっています.また ガロア群を完全には決定できていません.(Hagedorn 氏やDummit氏は,ガロア群を使って方程式を解くのではなく,逆に 分解方程式の有理数解の個数からガロア群を求めています.)

[4]例によって, Mathematica で可解で既約な6次方程式の厳密解を求めるプログラム 「solveSexticProgram.nb」も書きました.7次の時とは異なり,今度は完全形です.式を入力するだけで厳密解がすぐ得られます.

[5]上のプログラムは有料の Mathematica が必要ですが,無料の Wolfram Player さえインストールすれば実行できる 簡易版のアプリ「solveSexticApp.nb」 も作りました.(下のリンク) Wolfram Player は, Windows/Mac/Linux/iOS に対応しているので,iPhoneや iPAD で実行することもできるはずです.(ただし厳密解は長くなるので,iPhone はお勧めできません.) Windowsでの実行例はこちらにあります.

[6]6次方程式が 5次や7次と大きく異なるのは,「6」が素数でなく 「6=2*3=3*2」 となることです.そのため大きく分けて3種類の解法とガロア群が有ります.

  1. 「f=(x3+x2+x+1)2+4(x3+x2+x+1)+1」の様な(g)2+a(g)+b(gは3次式)と同様に解けるタイプ→ガロア群がG72のグループ
  2. 「f=(x2+1)3+(x2+1)2+(x2+1)+2」の様な (g)3 +a (g)2 +b(g)+c (gは2次式) と同様に解けるタイプ→ガロア群がG48のグループ
  3. 「f=x6+2」の様な(g)+a (gは6次式) と同様に解くことができるタイプ→ガロア群がG12(G72とG48の共通部分)のグループ

Aのタイプは「2次方程式→3次方程式」の順で解くことができます.Bのタイプは「3次方程式→2次方程式」の順で解くことができます.Cのタイプはどちらの方法でも解くことができますが,一般には「2次方程式→3次方程式」の順で解く方が結果が綺麗です.もちろんここに挙げたのは代表的な例のみで,実際にはこのような簡単な形に変形できないが解ける方程式がたくさんあります.例えば f=x6+x5+x4+x3+x2+x+1のガロア群はC6でG12の部分群となり可解ですが,「(g)2+a(g)+b(gは3次式)」や「 (g)3 +a (g)2 +b(g)+c (gは2次式)」の形には直せません.このような場合でも解く事ができます.

5次の時はガロア分解方程式に使われるθ(解の式)が非常に複雑で長く,かつ(簡単には)分解もできなかったのですが,6次ではθが「1個→3個→2*3個」或いは「1個→2個→3*2個」と簡単に分解できます.(そのようなθを選ぶことが可能です). そしてそのことが上の様に「3次方程式→2次方程式」,「2次方程式→3次方程式」の順で解けることに密接に対応しています.恐らく素数次でないときは,同様に θが分解できると予想されます.

[7]原稿はMathematica14 で書きました.Mathematica をお持ちの方なら,notebookをダウンロードしてそのまま「ノートブックを評価」すれば,厳密解とそこに至るプロセスの両方が良く分かると思います.Mathematica をお持ちでない方は PDF をご覧ください.「PDFの右端が切れて読めない」などの場合は,[5]で触れた「Wolfram Player」をご利用ください.


[8]ご感想,ご質問などは下のメールリンクからお願いします.それではお楽しみください.これで Mathematica , GeoGebra, Magma, SageMath など数学ソフトの愛好者が一人でも増えれば良いと思っています. (2025年 6月2日)

参考文献

1.Genaral Formulas for Solving Solvable Sextic Equations ( Thomas R.Hagedorn) -2000年
6次方程式の解を求める道筋とガロア群の求め方が書かれています.Appendixにはミスが有ると思います.(例えばb4)
2.Solving solvable Quartic, Quintic and Sextic Equations (Massimo Fumiani)- 2022年
幾つかの論文をまとめただけの学位論文の様ですが,纏まっているのは良いです.
3.Irreducible sextic polynomials and their absolute resolvents ( Minnetota Journal of Undergraduate Mathematics)-2015年
解を求めるのではなくガロア群をより簡単に求める方法が載っているようです. 実は次に読む予定の論文です.学部生向けの雑誌の様です.

 Mathematica で 可解で既約な6次方程式を解く具体例
方程式 Galois群 PDF Notebook
1. x6+3x3+9x2+9x+9 G72 G72_solutions.pdf G72_solutions.nb
2. x6+2x3+3x2+6x+4 G48 G48_solutions.pdf G48_solutions.nb

 6次方程式一般の簡単な説明(ガロア群とガロア分解式)
PDF Notebook
SexticEquation.pdf SexticEquation.nb

 可解で既約な6次方程式を解くプログラムとApp
PDF Notebook
Program solveSexticProgram.pdf solveSexticProgram.nb
App solveSexticApp.nb

プログラムで使用した補助公式(p10a〜p10f,p15a〜p15eの式)
sexticFormulas.txt

可解で既約な6次方程式のリスト(係数の絶対値が10以下)
solvableSextic.txt

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